文科省戦略的研究基盤形成支援事業

徳島文理大学大学院薬学研究科

『有機合成と天然物化学の手法による医薬品素材の開発』

新代表・角田鉄人(薬品化学教室・教授)



研究概要

本共同研究は平成10年に採択されたハイテク・リサーチ・センター整備事業『バイオテクノロジーを用いての植物由来の生理活性物質に関する研究』に端を発し,平成15年に『有機合成と天然物化学の手法による医薬品素材の開発と活性評価』に改題して継続が認められた研究を引き継ぐものであります.その間,結核菌細胞表層糖脂質TDMの免疫活性化を基盤とする制がん剤の開発研究は大きく前進しました.TDM類縁体であるジフテリア菌の細胞表層成分TDCMの合成研究において,その脂肪酸側鎖の立体化学が2R,3Rであることを証明し,TDMに比べて脂肪酸鎖の短いTDCMがTDNと同等の免疫活性化を示す一方で,毒性を殆ど発現しないことを明らかにしました(Vaccine 1999)(化学同人・化学モノグラフ,2007).そこで2本の脂肪酸鎖長をC3からC20まで変化させた,RRRR, RRSS, SSSSの立体化学を有する25種類のTDCM誘導体を合成し,サイトカインIL-6の産生を調べた結果,C14側鎖からなるRRRR-TDCMすなわち天然物が最強のIL-6産生を誘導しました.極めて珍しい低分子量のIL-6産生誘導物質の発見であります(J. Org. Chem. 2007).ついで天然TDCMをリード化合物として,徹底した改良合成法により,100検体近い誘導体の合成を行い,生物系研究室がそのマクロファージ活性化,好中球活性化をin vitroで評価して,TBU-64と仮称する化合物に天然物を上回る強い活性を見出しました.TBU-64はin vivoの実験で強い制がん性・がん転移阻害活性を示し,さらにTBU-64は免疫活性化を作用機序とする全く新しい感染症治療薬となりうる可能性が大きく広がりました.本化合物はマウス一匹当たり100mgを一ヶ月間連続投与しても全く毒性を発現しないことが明らかになり,驚異的に低毒性であることも明らかになりました.この他,本プロジェクトでは次の医薬品素材の開発に繋がる基礎研究を重視し,新たな触媒系の構築,新反応の開発,天然物の全合成,新たな天然薬物資源の開発を強力に推進します.なお,先行の継続ハイテク・リサーチ・センター整備事業では5年間に19件の特許を出願し,304報の論文,57編の総説を発表,940件の学会発表・招待講演を行い,平成17年度の中間評価においてはAAの評価を頂戴しました.この様に目覚ましい成果を残した継続ハイテク・リサーチ・センター整備事業を継承し,私立大学戦略的研究基盤形成支援事業として,一層大きく発展させたいと考えております.(元代表・西沢麦夫 著)