研究テーマ

生体に投与された薬物は、血流に乗り生体内を循環し、血液脳関門、血液肺関門その他各組織の障壁を超えて各部位に至り、薬効を発揮する。また、一部は代謝によって生体内変化を受け、ついには排泄される。以下に、研究テーマを述べる。

I  

微小血管内皮細胞は血液組織関門の中心的役割を担っており、細胞間結合、トランスポータ−あるいは酵素を介して、組織固有の内部環境を保っている。特に、血液空気関門を形成している肺微小血管内皮細胞(LMECs)は血液と外気とを隔てる 関門として重要であり、薬物の経肺吸収あるいは血液から肺への移行の第一関門となる。

テーマ@

まず、LMECsが細胞間密着結合(タイトジャンクション)を形成しているか否かを透過クリアランス、タイトジャンクションタンパク発現や其の遺伝子発現などを検討する。

もし、タイトジャンクションが形成されているとすれば、瞬間的にこの関門を開口することができれば、親水性薬物や高分子化合物の経肺吸収を高めることができ、または血液から肺への薬物の移行性を高めることができ、医薬品開発に大きく貢献できるのではないかと考えている。しかし、開口が持続すれば浮腫などの疾患に繋がってくる。

テーマ@では、LMECsのタイトジャンクションの形成とその制御に関与する様々な物質の影響について研究する。

テーマA

LMECsには、輸送系はもちろんのことであるが、薬物代謝機構の存在も推測され、薬物代謝バリアーとして薬物の組織移行を制御している可能性が考えられる。見方を変えれば、すなわち、血管内皮細胞で薬物代謝を回避することができれば、薬物を効率的に肺へデリバリーすることができるのではないかと考えた。

ーマAでは、LMECsにおける薬物代謝酵素の活性とその遺伝子及びタンパク発現について研究し、さらに、これら遺伝子、タンパク発現に及ぼす様々な物質の影響について検討する。

テーマ@とAから、薬物の合理的な経肺吸収システム及び効率的な組織移行システムの開発を行う。

ここにこれまで得られた知見を図2、3にまとめた。

II

薬は、本来病気の時に服用するものである。したがって、病態時における薬物の体内動態を研究することは薬物の適切な投与計画に繋がってくる。本研究室では特に、肝薬物代謝酵素活性の変動とその回復に焦点を当て、投与設計に寄与したいと考えている。

テーマB

ストレスは現代社会にはびこり、ストレスによって投与された薬物の体内動態が変化し、投与設計が正しく行われてなくなっている可能性がある.

テーマBでは、水浸拘束ストレス負荷マウス(物理的ストレス)及び隔離ストレスマウス(心理的ストレス)の肝ミクロソームにおけるシトクロームP450CYP)およびフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)活性の変動を検討し、これら酵素のタンパク発現及び遺伝子発現への影響について研究する。

テーマC

花粉症やアトピー性皮膚炎に代表される1型アレルギーもまた現代社会に蔓延している。

テーマCでは、アナフィラキシーショックがマウス肝ミクロソームにおけるイミプラミンの代謝におよぼす影響を検討する。また、CYP及びFMOのタンパク発現及び遺伝子発現への影響についてもテーマBと同様に検討する。

テーマBとCから、病態マウスに種々な物質を投与し、薬物代謝酵素活性の変動に対する回復効果をスクリーニングする。 と同時に、病態時における適切な投与設計を構築する。


III調査研究

薬剤学は多岐にわたる学問である。薬剤学視点から次のテーマを調査、実験する。

テーマD

ワルファリンのヒト血漿アルブミン結合に対するOTC薬及びサプリメントの影響とその安全性:

セルフメディケーションの意識が高まる中、薬剤師は処方薬とOTC薬や健康食品との相互作用に注意を払わなければならない。本実験では、HPLC法によるワルファリンの定量法を新たに確立し、ワルファリンのヒト血漿アルブミンへの結合能に及ぼす併用薬物の影響について検討する。

テーマE

バイオディーゼルとしての油を効率的に回収するための解乳化について検討し、洗剤などで乳化された海水や河川に流出した油を効率よく回収できるか否かの基礎実験を行う。この基礎研究は、津波や河川氾濫などで家庭内から流出した油や車などからのエンジンオイルなど多量に流れ出る油の回収に大きく役に立つと考える。

テーマF

散剤の服薬時の飲みにくさを改善し、コンプライアンス向上に繋げるために、配合される滑沢剤の種類の選択及びその適切な量を検討する。

テーマG

近年サプリメントの摂取が急激に増加しているなか、サプリメントの品質確保ができているのか、重要な課題である。いわゆる健康食品の崩壊試験を試みる。実際試験してみると、崩壊試験に適合しない健康食品がすでに数種類見つかっている。




研究業績

[著書]

1櫻井栄一(2008)分担執筆、対話と演習で学ぶ「薬物速度論」、伊賀勝美()、廣川書店。

2櫻井栄一(2009)分担執筆、CBT対策と演習「薬剤学1−薬物動態学−、薬学教育研究会()、廣川書店

3櫻井栄一(2009)分担執筆、CBT対策と演習「薬剤学2−製剤学−」、薬学教育研究会()、廣川書店。

4. 櫻井栄一(2011)単著、マッピングナビゲーション 薬物速度論演習、京都廣川書店。

5櫻井栄一(2011)分担執筆、NEWパワーブック生物薬剤学、第2版、廣川書店。

6櫻井栄一(2012)分担執筆、NEWパワーブック物理薬剤学・製剤学、第2版、廣川書店。

7櫻井栄一(2012)分担執筆、コンパス薬物速度論演習、南江堂。

8櫻井栄一(2012)分担執筆、標準薬剤学、改訂第3版、南江堂。

[訳書]

1櫻井栄一(2011)分担執筆、ラング・デール 薬理学(RANG AND DALE’S Pharmacology、樋口宗史、前山一隆(監訳)、p.98-126、西村書店。

[原著論文]

1.Sakurai E., Sakurai Eiko, Watanabe T., Yanai K (2009) Uptake of L-histidine and histamine biosynthesis at the blood-brain barrier. Inflamm Res 58: 34-3.

2.Iizuka Y., Ueda Y., Yagi Y., Sakurai E. (2010) Significant improvement of insulin resistance of GK rats by treatment with sodium selenate. Biol Trace Elem Res 138: 265-271.

3. Sakurai E., Sakurai Eiko, Ueda Y., Yagi Y. (2011) Enhancing effect of zinc on L-histidine transport in rat lung microvascular endothelial cells. Biol Trace Elem Res 142: 713-722.4.Ueda Y., Kanayama M., Yamauchi N., Iio C., Taira Z. (2012) Effects of Hachimi-jio-ganextract on intestinal absorption of calcium in ovariectomized mice and stimulation of

RANKL-induced osteoclast differentiation of Raw264.7 cells by lipopolysaccharide. J. Hard Tissue Biol. 21: 469-476.

5. Ueda Y., Taira Z. (2012) Pharmacokinetic characterization of calcium from three calcium salts (Calcium chloride, Calcium acetate and calcium ascorbate) in Mice. J. Hard Tissue Biol. 21: 291-298.

6. Ueda Y., Taira Z. (2013) Effect of anions or foods on absolute bioavailability of calcium from calcium salts in mice by pharmacokinetics. J. Exp. Pharmacol. 5: 1-7.

7. Sakurai E., Ueda Y., Mori Y., Shinmyouzu Y., Sakurai Eiko (2013) Flavin-containing monooxygenase (FMO) protein expression and its activity in rat brain microvascular endothelial cells. Pharmacol. Pharm. 4:1-6.

8. Ueda Y., Yaginuma T., Sakurai Eiko, Sakurai E. (2014) N-Demethylation and N-oxidation of imipramine in rat thoracic aortic endothelial cells. In Vitro Cell. Dev. Biol. Anim. 50: in press.

 

図1