[1]肥満・メタボリックシンドロームに関係する遺伝子とそのはたらき
日本人は相対的に肥満度が小さいにもかかわらず糖尿病が多く、発症まで長時間がかかり食生活や環境因子が影響を与えることが推定される。肥満はメタボリックシンドロームの基礎となり糖尿病、虚血性疾患などを誘発する。肥満防止がメタボリックシンドローム防止に重要である。そのため肥満に関わる遺伝的要因を明らかにする。
[1]-(1)金属結合タンパク質メタロチオネインによる肥満抑制の機構解析
金属結合たんぱく質メタロチオネイン(
詳細は別項)の遺伝子発現欠損マウスが高脂肪食摂取した時、肥満となることを初めて見いだした。食欲抑制ホルモンのレプチン効果がなくなり、脂肪細胞への脂肪とりこみが顕著に増加し、脂肪細胞が大きくなった。メタロチオネインが肥満遺伝子発現を抑制している可能性が明らかとなった。さらに脂肪細胞に特異的にこの遺伝子を発現し肥満防止する系の確立を目指している。
[1]-(2)肥満発症における系統差に関わる遺伝子解析
脂肪を摂取しても肥満になる人とならない人がいるが、それはどのような遺伝子によって決められ、条件があるのだろうか。同じマウスでも系統が異なると肥満になるマウスとならないマウスがいることがわかった。その遺伝子を解析中である。
[1]-(3)カドミウムや亜鉛がおよぼす脂肪細胞に対する影響
本研究ではメタボリックシンドロームの発症・増悪に、カドミウム、水銀や亜鉛などの重金属が与える影響を検討することを目的としている。日本人は欧米人に比べても知らずに食品からカドミウムを多く摂取する。カドミウムは体内に入ると体内から排出されず半分量になるまで20〜30年かかる。体内に入ったカドミウムはメタロチオネインを新たに合成させて結合して毒性を抑えてしまう。しかし、日本人の中にメタロチオネインを合成する能力の低い集団があり、常に長期間にわたりカドミウムは作用していることになる。カドミウムは血糖値をあげる作用を持ち、II型糖尿病者は尿中カドミウム排泄量が多いという報告がある。
肥満は前駆脂肪細胞から脂肪細胞へ分化・増殖し、数は増大し、さらに脂肪滴を取り込んで肥大化して、体形として肥満型になっていく。これまでは脂肪組織は脂肪を貯蔵する組織と考えられていたが、最近になって脂肪細胞からアデイポサイトカインといわれるインスリンを作用しやすくする化合物アデイポネクチンや作用しにくくするレジスチンや腫瘍壊死因子、さらには血液凝固させる因子を分泌する。肥満化した脂肪細胞からはインスリンを作用しにくくする化合物を多く分泌するようになる。
カドミウムや亜鉛がアデイポサイトカインの分泌を変化させてインスリンの作用に影響を与える可能性と仕組みを研究している。
[1]-(4)脂肪細胞が脂肪蓄積する機構の解明
脂肪細胞が脂肪をため込む仕組みはまだ十分知られていない。高脂肪食摂取時に発現が増大する脂肪貯蔵関連遺伝子を中心に制御機構を解析する。MEST遺伝子過剰発現細胞を構築中である。
[1]-(5)脂肪に溶けやすい環境汚染物質による脂肪細胞への影響
ダイオキシンで活性化する芳香族炭化水素受容体が活性化し、油滴が取り込まれて肥大化細胞となる。この芳香族炭化水素受容体には3種類あることが知られているが、肥満に関係するか検討する。リガンドを暴露し、各芳香族炭化水素受容体が活性化した時、異なる芳香族炭化水素受容体を有するマウスの各系統によって肥満化の程度がどのように変動するか、その機構を研究する。環境中の物質の作用と肥満の関係を解明する。
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