公衆衛生学講座 研究内容 [2]

[2]環境ストレスの生体への影響

[2]-(1)精神的ストレスが肥満・メタボリックシンドローム発症・進展へおよぼす影響

 現代人はかつてないほど多いストレスにさらされている。多くの人々に心の病を引き起こしているが、肥満・メタボリックシンドロームに影響するのだろうか?朝食を抜くなどの不規則な食生活は、朝食を毎日とる人に比べて糖尿病を4倍も多く発症させるリスクがある。さらに肥満およびメタボリックシンドロームを増悪させる可能性をアデイポサイトカイン分泌の変動から研究する。






[2]-(2)細胞内ミトコンドリアで産生される活性酸素による細胞機能への影響と防止

 ヒトは酸素を取り込んで呼吸をする。細胞内ミトコンドリアでは呼吸に伴い常に活性酸素が産生する。その量は使用される酸素の2〜5%とされる。活性酸素が加齢・老化を加速し、虚血性心疾患やパーキンソン病等多くの疾患を発祥させるので、その防御物質を見出すことが重要である。本研究室ではミトコンドリア由来活性酸素の障害発現における役割と内在性・システインを多量含有するメタロチオネインが防御する可能性を検討している。
 5種の呼吸阻害剤をマウスに暴露すると肝臓や細胞中でメタロチオネインが誘導され、メタロチオネイン遺伝子発現欠損動物や細胞では、肝障害度、活性酸素産生量はより顕著だった。ミトコンドリアで活性酸素が産生されると、メタロチオネインが誘導合成され、酸化障害を抑制し、ミトコンドリア由来活性酸素防御におけるメタロチオネインの重要性が明らかとなった。
 今後はミトコンドリアで活性酸素が産生され、誘導合成されたMTがミトコンドリアに局在する可能性や全抗酸化防御系における寄与度や疾患における解析が課題である。


[2]-(3)小胞体ストレスにより発症する神経変性疾患:アルツハイマー病を防止する天然物の探求と作用機構

 研究の背景:小胞体(endoplasmic reticulum; ER)は、蛋白質品質管理機能を持ち、新規合成蛋白質の折り畳みや細胞内Ca2+ レベルを調整し、蛋白質の正常な機能を発現させている。また、折りたたみ不完全な蛋白がER内に異常に蓄積したストレス状態で、細胞死を引き起こす。最近、小胞体ストレスやそれに関わるアポトーシスはアルツハイマー病などの神経変性疾患発症や糖尿病に関与していることが報告されている。そのため、小胞体ストレスから生体を防御する物質の探索は、アルツハイマー病などの神経変性疾患の予防につながる可能性がある。
 これまで当研究室では生薬bergeninのカプロン酸エステル結合誘導体Norbergenin-11-caproate (NB-11-cap)がERストレス誘導剤ツニカマイシンによる細胞死を完全に抑制することを明らかにした。その抑制効果は,小胞体ストレスによる活性酸素(ROS)産生を抑えて,アポトーシスを抑制することを明らかにした。
 神経芽細胞腫IMR-32における他の小胞体ストレス誘導剤thapsigargin(小胞体内カルシウムの恒常性を乱す)による細胞死に対して、NB-11-capは細胞死を完全に抑制した。NB-11-cap は2種の異なる機構を有する小胞体ストレス誘導剤による細胞死を完全に抑制したことから、小胞体ストレス、或いはそれに関連して発現する細胞死を抑制することが明らかとなった。また、ビタミンEがThapsigarginによる細胞死を完全に抑制したことから、NB-11-capも活性酸素消去により小胞体ストレス誘導細胞死の抑制作用を発現している可能性が考えられた。今後は、動物個体でNB-11-capが小胞体ストレス誘導剤による障害を示すかを明らかにする。
 さらに小胞体ストレスによるアポトーシスに関与する因子とミトコンドリアのアポトーシスに関与する因子との関係を中心にアポトーシス機構を解析中である。







[2]-(4)小胞体ストレスが妊娠・出産へおよぼす影響

 糖尿病においては妊娠・出産時に障害(子宮内胎児発育遅延)をおこしやすいことが知られている。その要因として小胞体ストレスが関与して影響をおよぼしている可能性がある。母体に小胞体ストレス誘導剤を暴露して胎盤機能あるいは胎子の発育への影響を検討し小胞体ストレスとの関係を明らかにする。


[2]-(5)環境汚染物質カドミウム、水銀および亜鉛が細胞へおよぼす障害及びアポトーシス誘導機構解析

 カドミウムや水銀は毒性の高い金属としられているが、その発現機構は十分解明されていない。カドミウムや水銀は細胞死を誘起する。本研究では、その機構を解明し、周期律表で同族である両金属の細胞死誘導に関わる情報の違いを明らかにする。水銀はカドミウムより低濃度で細胞死を惹起し、細胞死のなかで、アポトーシスを誘導した。細胞死には細胞が破壊され内容分子が放出される壊死と自殺ともいえるアポトーシスがある。カドミウムや水銀によってアポトーシスがおこると機能障害を示す。アポトーシスには複数の経路が存在するが、カドミウムや水銀は複数の系を同時に経由することが明らかになったが活性酸素の関与度には違いがあることが明らかになった。これまでカドミウムや水銀によるアポトーシス機構に関する論文を発表したが、米国専門誌における過去5年間において、引用回数のもっとも多い論文とされた。
 今後の課題としては、カドミウムと水銀は細胞死を誘起するが、どのような最初のシグナルの相違がアポトーシス機構の違いを生み出す可能性を詳細に研究する。


[2]-(6)動物由来化合物による小胞体ストレス修飾作用

 動物由来の化合物が小胞体ストレス修飾作用を有する可能性を探るため、アブラムシ由来色素の細胞に対する影響を検討した。アブラムシ由来色素はヒト前骨髄性白血病細胞にアポトーシスを誘導する事が明らかになった。ユキヤナギアブラムシやセイタカアワダチソウアブラムシに含まれる精製色素を細胞に添加すると、細胞保護作用ではなく、むしろアポトーシスを誘導した。今後の課題としてはアブラムシ由来色素は、多量に含まれ何らかの防御作用が推測されることから、今後、神経細胞への影響の検討も必要と考えられる。




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