不可能が可能に!!

新しい有機合成反応の開発

 現在までに数多くの有用な有機化学反応が開発されてきました。光延(みつのぶ)反応はその一つです。アルコールを予め活性化することなく、求核剤と脱水縮合できる優れた方法です。しかし、反応には限界がありました。求核剤のpKaが大きすぎる(13以上)と反応が進行しないのです。私達はこの制約を緩和できる新しい試薬を開発しました。これにより、これまで全く得られなかった化合物を満足のいく収率で得ることに成功しました。
 現在、”複数の反応点”を有するアルコールや求核剤を用いた光延反応に新試薬を使用して、位置及び化学選択的に生成物を得る反応へと展開しています。

分子認識による「平衡の逆流」を実現!!

機能性分子の設計と反応

 これまでにない全く新しい方法論に基づいた光学活性化合物の調製法を考案しました。通常、混合物を与える平衡反応を利用する方法です。
 光学活性なα-置換ケトン類は、塩基により容易に混合物(ラセミ体)になります。ここに片方のケトンと分子認識する「ホスト分子」を導入することで、安定な包接錯体が形成し、平衡を光学活性側へ移動させることができるようになりました(デラセミ化)。いわば、”平衡の逆流”現象と考えています。
 水相を有機相で仕切った「液膜」を通って、水相(供給相)にあるゲスト分子を分子認識により、受容相側に運ぶ(移送)ことのできる、働き者の「ホスト分子(キャリア分子) 」の創成も目指しています。

有機化学の醍醐味!! 面白い!!

天然有機化合物の合成

 簡単に手に入る単純な有機化合物から、より複雑な化合物へと導いていく有機合成化学は、有機化学の最も得意とする分野です。私達は生物活性天然物の合成に取り組んでいます。
 アブラムシに含まれる赤色色素ウロロイコナフィンA1は、抗菌活性を有しています。D-フコースとα-レゾルシン酸を出発原料として調製した2つのユニットを縮合することで、ピラノナフトキノン環を合成しました。今後、ウロロイコナフィンへと導く予定です。
 また、私達の研究室で開発した反応を利用して、窒素を含む天然物の合成しその反応の有用性を示しています。
 現在、C-グリコシド結合を持つエクスフォリアマイシンの合成を開始したところです。

不思議にせまる!!

天然有機化合物の構造決定

 世界に4,000種以上生息していると言われているアブラムシの中には、赤や黄色、緑といった鮮やかな体色をもつものが多く存在します。私達はその体色表現の原因物質である色素の研究をしています。例えば、赤色のセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシからは赤色の色素を、ソラマメヒゲナガアブラムシからは天然物としては珍しい緑色色素を単離・構造決定しました。現在、これらアブラムシが「なぜこのような色素をもつのか」に興味をもっています。そしてこれまでに、ある種のカビに対する生体防御因子ではないかという仮説を立てています。
 また、得られた赤色色素に酸を加えると、違うアブラムシのもつ緑色色素に変換可能なことを最近見出しました。